私は薬剤師として患者へ適切な服薬指導を行う義務がありますが、運転禁止薬や運転注意薬の対象が増加し、どの程度の強制力をもって「運転禁止」を指導するのか、大変悩みました。
おそらく皆さんもそうだと思います。
今回はそもそもなぜ運転禁止薬が注目されるようになったのか、他院や他薬局ではどのような対応を取っているのかをまとめていきますので、よろしければ悩みを共有しましょう。
運転の注意喚起の経緯
厚生労働省の通知の理由
平成25年5月に厚生労働省から都道府県に対し「医薬品服用中の自動車運転等の禁止等に関する患者」への説明について」の通知がなされました。
その内容として、
医薬品の副作用による保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止する観点から添付文書の使用上の注意に自動車運転等の禁止又は自動車運転等の際は注意が必要とする旨の記載がある医薬品について下記の措置を講ずる必要がある。
- 添付文書の使用上の注意に自動車運転等の禁止等の記載がある医薬品を処方又は調剤する際は、医師又は薬剤師から患者に対し、必要な注意喚起が行われるようにする。
- 意識障害等の副作用がある医薬品について、自動車運転等の禁止等の記載を検討し、記載が必要なものについて速やかに各添付文書の改訂を指示する
総務省が行った「医薬品等の普及・安全に関する行政評価・監視」によれば、
失神等の意識障害の副作用報告が多かった上位46成分のうち22成分の添付文書に「意識障害」の記載はあるが「運転禁止」の記載はない。
→その22成分のうち4成分において8件の自動車事故の報告があり。
これにより、副作用による被害発生・拡大防止のために運転禁止薬の指導が注目されるようになりました。
運転禁止薬の運転で罰則の可能性あり。
法律では、運転禁止薬を服用して運転することを禁止としています。
もし薬を服用して事故をした場合、「運転に支障がある」と判断されてしまうと通常より重い罰則〈危険運転致死傷罪〉となってしまいます。
全員が必ずしも副作用を起こすわけではありませんが、厚生労働省が製薬会社に対して運転禁止薬の記載を検討するよう圧力がかかっているため、眠気等の可能性が低くても「運転禁止薬」の指定を受けてしまう現状があります。
しかし、これでは持病により薬を服用している患者にとっては、ずっと運転できない状態になってしまいます。
日本てんかん学会から公表された「抗てんかん薬の薬剤情報添付文書における
自動車の運転等に関する記載についての見解」では、
抗てんかん薬における自動車運転禁止の記載は「抗てんかん薬を服用するすべての患者」ではなく、「自動車運転等に支障をきたす副作用が生じていると考えられる患者」にのみ適応されるべきである。
との、運転禁止とすることの非現実的対応に異論を唱えています。
私の病院では、医師が運転禁止薬の服用患者に対し、運転には注意が必要だが自己責任で行うことを可としている場合を多く見ます。運転できないことの日常生活への支障は大きいと感じているようであるが、交通事故と天秤にかけるとなると、判断は難しいでしょう。
薬剤師の私の経験からしても、「まったく運転してはいけないの?こまります。」と言われ、対応に困ったことがあります。事故を起こされてはいけないので、せめて運転禁止薬だと知っておいてほしいというのが本心です。
運転禁止薬の種類
では、どのような種類の薬物が運転禁止薬に分類されているのでしょうか。
運転禁止に分類される薬剤
一般的に使用する抗アレルギー薬・鎮痛薬・制吐剤などで運転禁止に分類されるものが多く存在しています。運転禁止薬に対する患者指導の重要性が感じられます。
運転注意の記載がある薬剤
「禁止」の分類ではなく「注意」の記載がある薬剤においては、高血圧薬・糖尿病薬・排尿障害改善薬など、これも身近な薬剤が分類されています。
詳しく知りたい方はネット上に鳥取大医学部附属病院が最新R3年9月に更新している「運転禁止薬一覧」がありましたので、わかりやすかったためよければ参考にしてください。
運転禁止薬の指導の実態
では、どのように服薬指導することが患者にとってベストなのでしょうか。
滋賀県の一部の薬局の対応
滋賀県薬剤師会が2014~2015年に該当薬局116施設に対してアンケートを行い、運転禁止薬の指導実態の調査を行っている論文を紹介します。
原著論文「自動車運転に影響を及ぼす医薬品の処方における薬局薬剤師の対応」参考
薬局薬剤師は「服用中の運転を控えるよう指導する」または「運転中症状が出たら車を止めるよう指導」という対処をされていることが分かります。
「薬剤情報提供書のお渡しし患者判断」や、「何もしていない」も少ないものの存在しています。これでは患者は眠くなることすら理解していない可能性がありますので非常によくないと考えます。
かといって「処方変更依頼」は薬そのものの効果が変わる可能性があるので、難しいというのが現場ででしょう。
当院の対応方法
私の勤める病院は院外処方が85%以上のため、ほぼ近隣薬局に任せてしまっておりますが、院内処方に関しては「運転禁止薬」とのコメントが薬品名の下に入るようにシステム化されました。
当院では運転禁止薬が処方された際の対応をマニュアル化しています。
当院のマニュアルを以下に添付します。
運転禁止薬の処方が初回であり、代替薬があれば「疑義照会」をし、代替薬なければ「副作用説明と副作用発現時の注意」を行うことになっています。
完全に運転禁止とはできない現状と理想のあいだで試行錯誤する医療施設は多いと思いますが、患者第一の考えには変わりありませんので、その患者1人1人での慎重なご判断をお願いいたします。
もし院内方針の確立していない薬剤部があればぜひ参考にしてください。
まとめ
- 総務省の調査により、意識への影響のある薬剤によると考えられる交通事故が明らかになり、当該薬において運転禁止の記載と患者指導に注力するようになった。
- 運転禁止薬を服用して車の運転をすると、自己の際に通常より重い罰則となることがある。
- すべての患者において運転禁止とすることは、現実的に難しい。
- 対応として、疑義照会で薬剤変更をするよりも、患者への注意喚起を行う医療施設が多い。
薬剤師は患者指導において重要な役割をもっています。
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