【トラフ値は古い】AUC指標のバンコマイシンのTDM メリットを病院薬剤師が解説。

薬剤師の仕事
薬剤師 
薬剤師 

トラフ値よりAUCがTDM指標として優れる根拠は何ですか。

上記の質問を解決いたします。

病院薬剤師ならTDMに携わることが多いのではないでしょうか。

私は今年までトラフ値でしか投与設計の提案をしたことが無く、AUCによる投与設計が信用できるものななのか不安でした。そのため、同じような疑問を持つ薬剤師の方は多いと考え、今回記事を書かせていただきました。

バンコマイシンのTDMの背景

①TDMとは

TDMとは、「therapeutic drug monitoring」の略であり、患者個々に適した投与設計を行い、血中薬物濃度を管理することです。

有効血中濃度域と中毒濃度域が近い薬物が対象となります。

TDM対象薬物
  • 炭酸リチウム
  • ジゴキシン
  • テイコプラニン
  • バンコマイシン
  • ボリコナゾール
  • アミカシン
  • ゲンタマイシン
  • タクロリムス
  • シクロスポリン  等

②バンコマイシンのトラフ値を取る理由

バンコマイシンでのPKの目標値は、治療成功:AUC/MIC≧400と言われています。

ただし、AUC計算のために1回の投与で7回の採決ポイントが必要であり、この方法はとうてい現実的でありませんでした。

そのためトラフ値の指標の代替として使用してきた歴史があります。

 

③AUC優位となった背景

近年、バンコマイシン等のTDMアプリケーションの発達に伴い、AUCの計算が容易にできるように進化してきました。

いままでのトラフ値による投与設計ではAUC≧400~600を大きく上回る結果になることが少なくないことが判明し、AUCガイドに沿った投与設計をすべきではないかとの風潮が強まっています。

AUCを指標とするメリット

日本化学療法学会の委員会報告に上がっているwebセミナー「バンコマイシンにおける新時代の到来」を参考に簡略化して説明しています。

①治療効果と腎障害の濃度

バンコマイシンによる腎障害の指標として、尿中KIM-1濃度が知られています。AUCとトラフ値とのそれぞれに対する相関関係はr²=0.61と0.46であり、AUCとの高い相関関係を示しました。(参考:Avedissian SN et al.J Antimicrob Chemother.2019; 74:2326-2334)

右の図はresponse(効果)が見られるAUC/MICを示しており、AUC/MIC=400~700ほどで効果治療効果を示していることがわかります。

右の図はNephrotoxicity(腎障害)が見られるAUC/MICを示しており、こちらはAUC/MIC=600~700ほどで腎機能障害発現が見られることがわかります。

以上のことから、目標AUC/MIC=400~600が適していることが示唆されます。(参照:Suzuki Y et al. Chemotherapy.2012; 58:308-12)

②トラフ値とAUCの指標としての比較

これは上記に示したリンクで示した化学療法学会のサイトで見ていただきたいのですが、

AUC指標とする投与設計の方がトラフ値指標とするよりも、腎機能障害発現のリスクを低減することが示唆されています。(p=0.05) 

※論文を上記サイト以外で見つけることができなかったため、結論のみの記載となりもし訳ありません。

結論として、AUC指標の投与設計がトラフ値指標よりも推奨されるということです。

臨床上の経験

バンコマイシンの薬剤性腎障害の経験

トラフ値15~20μg/mlのシュミレーションをし、腎機能正常のMRSA感染症の患者に対しVCM投与をしました。

投与4日目にトラフ採血をしたところ、VCM血中濃度30ほどまで上昇し、eGFR:30~40ほどまで低下しました。

腎機能が低下したことにより、いままで服用していた薬剤の投与量の見直しを行う必要がありました。また、VCMは休薬となりましたが、腎機能が低下しているためなかなか抜けずに、腎機能低下の遷延を招いているようでした。

10日ほど経ち、ようやく腎機能が回復しました。

当時は自分を責めました。今となっては、トラフ値指標では正しい投与設計をしても薬剤性腎障害が起きてしまう可能性は排除できないと感じております。

今回、トラフ値の投与設計により目標AUCをオーバーすることが示唆されているため、AUCによる投与設計が主流になれば、こういった事例も少なくなるかもしれません。

不安に思う医師は多い

実際にAUCによる投与設計をすると、「投与量が少ないのではないか」と医師から言われることは多いです。通常成人であればトラフ値10~15μg/mlでAUC400~600は到達するというデータが存在します。(参考:Suzuki A et al. INfect Chemother,Accepted 12 Oct 2020.)

左はトラフ値と腎障害の関係を示しており、右はAUCと腎障害の関係を示しています。

このグラフからトラフ値10~15μg/mlがAUC400~600に相当することがわかります。

つまり医師からすればいつもより低い数値で提案されるということであり、効果面に不安を覚える医師は多い印象です。

きちんと学術的に最新の情報をもとに提案しているということを薬剤師から医師に発信することが重要になっています。

2022年TDMガイドラインの更新

ついに2022年にTDMガイドラインによりバンコマイシンはTDM目標をトラフ値からの脱却をしました。

AUC/MIC<400であれば、治療失敗となる可能性が高いことがわかっている。(OR:0.29)

逆にAUC/MIC>600であれば、腎障害を引き起こすリスクが高くなることがわかっている。(OR:2.10)

以上のことから、目標AUC/MIC=400~600を目指すこととされています。

詳細は「バンコマイシンにおける新時代の到来」を参考にしていますのでご覧ください。

まとめ

  • 近年はトラフ値による投与設計ではなく、AUCによる投与設計が主流になりつつある。
  • トラフ値指標のTDMよりもAUCの方が腎障害の指標とされる尿中KIMー1濃度とよく相関する。
  • トラフ値指標のTDMよりもAUCの方が腎障害発現のリスク低減することが示唆されている。
  • 今後、VCMのTDM指標の変化により、安全で効果のある薬物治療が推進されることを願う。

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました