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この記事を読むメリット
- 「がん診療レジデントマニュアル」の長所と短所がわかる。
- 「がん診療レジデントマニュアル」と買うべきかどうかを判断できる。
- 自分の勉強にこの本が向いているか理解できる
「がん診療レジデントマニュアル第9版」でできることは
- 癌種ごとの基本事項(罹患率や死亡率・危険因子・自覚症状・癌の特徴)を知る:★★★
- レジメン選択が適切であることを確認する:★★★
- 投与量が適切であることを確認する:★★
- 開始基準、減量基準、休薬基準、禁忌に該当しないことろ確認する:×
- 副作用の評価をする。:★
- 副作用に対する支持療法を提案する:×
「がん診療レジデントマニュアル」で勉強した感想
「がん診療レジデントマニュアル」の良かった点
①基礎の病態を「細かく」知ることができた。
それぞれの癌の危険因子や、特徴的な初期症状(食道癌なら食べ物のつかえ・大腸癌なら便秘や血便)について詳しく記載されており、基本の病態についての理解を深めることができた。
TNM分類が理解でき、Stageいくつから薬物療法を行うかと理解することができました。
基本的な治療方針の決め方がわかれば、レジメンの理解も深まります。
③レジメン選択の順番がよく理解できた。
ガイドラインでは治療アルゴリズムが細かく記載されており、見づらく感じることもあります。しかし、この「がん診療レジデントマニュアル」の本では、ガイドラインを簡略化して記載してくれているため、癌のSTAGEいくつで手術推奨なのか、薬物療法なのか、放射線治療なのか、かなり深く理解することができます。
さらに、レジメンが承認される元となった臨床試験と、その概要についても記載してくれているので、レジメン同士の比較(優位性や同等性)を学ぶことができます。
そのため、選ぶべきレジメンを理解でき、臨床での知識として生かすことができます。
術前薬物療法・術後薬物療法・1次治療・2次治療について分類して勉強することができますので、薬物治療の基本的な流れを理解しやすかったです。
④全癌腫を幅広く学ぶことができた。
食道・胃・胆肝膵・大腸などの消化器癌以外にも、乳癌・腎癌・膀胱癌・頭頚部癌・血液腫瘍など、どんな癌腫にも対応できる情報量があります。
この1冊があれば、どんな癌腫の勉強もすることができますので、基礎から学びたい方には向いていると思います。
⑤総論~緩和ケアまで情報を網羅している。
意外と個別の癌についての勉強はするのですが、そもそも癌とはどんなものであり、死亡率/罹患率はどの程度であるか、危険因子は何か、癌の型や基本方針は何か、といった「総論」を学ぶことができます。
癌性疼痛に対する基本的な介入方法についてもこの本で学ぶことができます。オピオイドの使用やその他の鎮痛補助薬の使い方も記載されています。また、オピオイドスイッチングなど、臨床で使用できる情報が多く、とても役に立ちました。
「がん診療レジデントマニュアル」の悪かった点
①レジメン1つ1つの情報量が不十分
この本には、各レジメンの開始基準、減量・休薬基準などの記載はありません。
私は普段、外来化学療法室で仕事をしています。レジメンの細かな投与量や副作用による減量や休薬の提案をしなければなりません。この点をカバーしたいのであれば、「がん診療レジデントマニュアル」はおすすめできません。
副作用の発現頻度などの記載もありませんので、介入するには向かない本であると思います。
②副作用の確率や減量・休薬基準の記載が不十分
各レジメンで副作用がどの程度起こるのかの記載がありません。例えば、Grade2またはGrade3の副作用が出たとして、「休薬」すべきなのか「減量」すべきなのかの判断するのにこの本はおすすめできません。
そのため、副作用に介入したい、休薬・減量の提案をしたい場合には、この本は参考にできる本ではありません。
がん認定薬剤師・がん専門薬剤師は、副作用によって減量/休薬を提案したり、副作用かどうかを調べたりするため、「がん診療レジデントマニュアル」だけでは戦えません
勉強用に読むのはいいですが、臨床での介入には不十分です。
③副作用については感染症・消化器症状・骨髄抑制・irAEしか項目がない。
副作用の項目が感染症・消化器症状・骨髄抑制・irAEしかないというのは、実臨床では足りなすぎます。末梢神経障害や皮膚障害、便秘・下痢、アレルギー、口内炎、高血糖、内分泌異常などなど挙げるとキリがないです。
副作用による対症療法の提案はこの本では確実に不十分です。
副作用について学ぶのであれば、別の本「がん薬物療法副作用管理マニュアル」をおすすめいたします。
→外部リンク「がん薬物療法副作用管理マニュアル」
「がん診療レジデントマニュアル」をおすすめできる人
レジメンの選び方を知りたい人
さまざまな癌腫のレジメンを知ることができます。
さらに、術前、術後、再発難治性の1次・2次以降のどこに適しているかを調べることができます。
レジメンがどのタイミングで使用するものか分からない人は持っておくべき1冊であると思います。
もともとレジデント医師向けの本ですが、薬剤師や看護師にもわかりやすく記載されており、共有して使用すべき本だと思います。
外来で癌指導する私は毎日この本を見ています。(本当に助かっています。)
基本的な治療方針を学びたい人
ある程度細かく、広く網羅できる一冊です。
薬物治療だけでなく手術や放射線、緩和ケアなどもセットで学べることも利点です。
癌種ごとの基本事項(罹患率や死亡率・危険因子・自覚症状・癌の特徴)を知ることができます。
「がん診療レジデントマニュアル」をおすすめできない人
開始基準・休薬基準・減量基準の確認をしたい人
上にも記載しましたが、限られたレジメンしか紹介されず、さらに減量・休薬基準などの記載はほぼありません。
臨床で副作用症状が出た際には、この本では減量休薬の提案をすることができませんので、おすすめしません。
副作用などへの対症療法へ薬剤の提案をしたい人
化学療法による副作用が出現した場合、どのような薬剤で対処するのかといった記載はありません。
「感染症」「骨髄抑制」「消化器症状」の項目があります。
そのため、薬学的介入を目的とすると「がん診療レジデントマニュアル」は情報が不十分ですので、おすすめしません。
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