【転移・再発】乳癌薬物治療アルゴリズム・治療の選択肢まとめ・解説(ガイドライン要約)

薬剤師の知識

参考文献:乳癌診療ガイドライン2022年版がん化学療法レジメンハンドブック第7版がん診療レジデントマニュアル第9版

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sakaguchi
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筆者がガイドラインや各種参考文献の簡易的な図を作成しました。

実際はもう少し、患者状態やStage・PS(パフォーマンスステータス)により治療方針は左右されます。

転移再発の乳癌の薬剤選択方法

それぞれの治療について後ほど説明いたします。

sakaguchi
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HER2+かどうか、HR+かどうかで治療の選択は全く異なってきますので、慎重に見極めてください。図の中のどの位置に患者がいるのかを考えるようにしてください。

治療選択には病理学的な検査が必要です。

HER2陽性または陰性・HR(ホルモン受容体)陽性または陰性

最近では、PD-L1陽性・BRCA病的バリアントかどうかまで関与します。

HR陽性(ホルモン陽性)乳癌

ホルモン陽性HER2陰性薬物治療

CDK4/6阻害薬・・・パルボシクリブ、アベマシクリブ

AI(アロマターゼ阻害薬)・・・アナストロゾール、レトロゾール 等

TAM・・・タモキシフェン

HR陽性の場合かつ、悪性度が低め(ルミナ―ルA)の場合は上記のアルゴリズムが現在の主流となります。(乳癌診療ガイドライン2022 CQ18~22参照)

閉経前・閉経後によって治療方法が異なります。乳癌ガイドラインによると、図の上から順番に薬物治療を行うことが推奨されています。内分泌療法抵抗性となるか、ViseralCrisisの判断となるまで内分泌療法を継続します。

卵巣機能抑制とは

卵巣機能抑制とは、外科的治療または内科的治療によりホルモン分泌を抑制する(閉経状態を惹起する)ことです。

方法としては、手術・放射線・薬物 の3通りありますが、近年では非侵襲的に卵巣機能抑制ができる「LH-RHアナログ」による薬物が主流です。しかし、永続的に効果を得られる手術や放射線も、場合によっては使用されることがあります。

術後内分泌療法後の再発の場合、

乳癌診療ガイドライン2022年版によると以下の記載がある。

  • 「術後内分泌療法治療中もしくは内分泌療法終了から1年以内」の再発に対する内分泌療法には,術後内分泌療法と異なる薬剤を選択する。
  • 「術後内分泌療法終了から1年以上」経過してからの再発に対する内分泌療法は,術後内分泌療法と同じ薬剤の再投与(CDK4/6阻害薬の併用投与を含む)も選択肢となる。

内分泌療法抵抗性と判断される場合は化学療法に移行する。

近年では、BRCA病的バリアントである場合は、内分泌療法終了後にPARP阻害薬を考慮する。

Viseral Crisis(ヴィッセラル クライシス)とは

 viseral Crisisとは

ABC5コンセンサスガイドライン(Advanced Breast Cancer 5th International Consensus Conference)2)では,visceral crisisとは,徴候や症状,臨床検査で評価される重度の臓器障害,および疾患の急速な進行と定義される。Visceral crisisは,単に内臓転移が存在することではなく,最も迅速で効果的な治療の臨床的適応となる重要な臓器障害を意味する。 ❖肝のvisceral crisis:肝転移が原因でビリルビンが急速に増加して,基準値上限の1.5倍を超える状態。 ❖肺のvisceral crisis:安静時の呼吸困難が急速に悪化して,胸水を排出しても緩和されない状態。

乳癌診療ガイドライン2022引用

HER2陰性乳癌

AC・・・アドリアマイシン+シクロホスファミド

EC・・・エピルビシン+シクロホスファミド

ERI・・・エリブリン

VNR・・・ナベルビン

PARP阻害薬・・・オラパリブ

HER2- 標準化学療法 (HR+高リスクor抵抗性 HR-)

まず、アンスラサイクリン・タキサンの治療が基本となる。

AC療法・EC療法を施行し、その後タキサン系(PTX・DTX)を使用する。

その他、以下の治療が適応できる。

・ベバシズマブを併用したPTX+BV療法が保険適応となっている。(ガイドラインCQ23参照)

・フッ化ピリミジン系であるTS-1療法、カペシタビン療法が使用できる。これらは内服薬であり点滴せずに自宅で治療できるメリットがある。(ガイドラインCQ24参照)

・周術期を含めてアンスラサイクリン・タキサンを既に使用している症例に対してERI療法(エリブリン)を使用できる。(ガイドラインCQ25参照)

生殖細胞系列BRCA病的バリアント

アンスラサイクリン系薬剤・タキサン系薬剤の既治療の場合、PARP阻害薬の単剤投与が推奨されている。

OlympiAD試験により、PARP阻害薬は標準化学療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に延長〔ハザード比(HR)0.56,95%CI 0.45-0.68〕した。

全生存期間(OS)も延長する傾向がみられたが(HR 0.87,95%CI 0.72-1.05),統計学的には有意でなかった。

現在は、単剤療法のみで日本承認となっている。海外ではCBDCA+PTX+PARP阻害薬の研究がなされておっりPFSの有意な延長を確認されているが、本邦未承認である。

トリプルネガティブ乳癌

トリプルネガティブ乳癌 転移再発

nab-PTX・・・アルブミン懸濁型パクリタキセル

PTX・・・パクリタキセル

CBDCA・・・カルボプラチン

GEM・・・ゲムシタビン

PARP阻害薬・・・オラパリブ

トリプルネガティブとは、HR(ホルモン)陰性かつHER2陰性の乳癌のことです。

前の項目で記載した、HER2陰性の薬物治療を行います。基本的には、アンスラサイクリン+タキサンなどの治療が適応されます。

トリプルネガティブ乳癌には、ある特定の条件下で使用できる薬剤があります。

PD-L1陽性

PD-L1陽性トリプルネガティブ乳癌にはアテゾリズマブ・ペムブロリズマブの免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を使用できる。(ガイドラインCQ31参照)

PD-L1陽性かつ生殖細胞系列BRCA病的バリアントであれば、ICI使用後にPARP阻害薬の使用を考慮する。

sakaguchi
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CBDCA(カルボプラチン)は2022年5月にペムブロリズマブとの併用で保険適応になっています。

単剤では使用できません。

HER2陽性乳癌

HER2陽性乳癌治療薬 転移再発

DTX・・・ドセタキセル  その他 は前項目参照

抗HER2薬+化学療法

HER2陽症例では抗HER2薬による治療効果が高いため、化学療法も抗HER2薬を併用する。

1次治療として、トラスツズマブ+ぺルツズマブ+DTX(推奨度強A)またはトラスツズマブ+ペルツズマブ+PTX(推奨度弱B)を推奨する。

トラスツズマブ+ぺルツズマブを使用した後に増悪した場合、2次治療として、トラスツズマブデルクステカンが推奨される(ガイドラインCQ28)

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以前までは、2次治療でトラスツズマブエムタンシンを使用していました。しかし、トラスツズマブデルクステカンのほうが有意にPFSを延長したことで2次治療へ格上げされました。

その他、トラスツズマブ+殺細胞性抗癌薬の使用。PTX、DTX、VNR、Cap(カペシタビン)と併用される。もしっくは、Cap+ラパチニブ療法が使用される。

HER2陽性かつHR陽性乳癌

HER2陽性のため、化学療法+抗HER2薬を使用する。

ただし、化学療法が適応とならない患者(高齢者・PS不良 等)に対しては内分泌療法+抗HER2薬による治療を推奨する。(ガイドラインCQ29)

また、内分泌療法単独は行わないことを弱く推奨する。

サイトの情報については筆者の解釈や病院の方針も考慮されていますので、参考文献や著書を参考に治療のご判断をお願いいたします。

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